NO8一橋大過去問で学ぶアジア・太平洋戦争 2006
戦時体制とアジア太平洋戦争の性格
教科書を調べてもなかなか書けそうにない問題である。
年度 2006年 設問番号 第3問
次の4つの文章を読んで下記の問いに答えなさい。
A 1939年,政府は重要時局産業に必要な労働力を確保するために,労働力の計画的な需給を図ることになり,39年7月以降労務動員計画(1942年度以降は国民動員計画)の策定をみることとなった。この労務(国民)動員計画は,企画院を中心にその基本方針ならびに需給数が決定され,これにもとづき厚生省において具体的な供給源別供給数の決定がおこなわれた。こうして小学校(国民学校)・中学校卒業生や中小商工業者など,国民諸階層から労働力動員が遂行された。
B 戦争末期の1944年になると,労働力不足はますます深刻化し,航空機関係工場や陸海軍の諸工場など,もっとも緊急を要する工場へ国民が集中的に動員されることになった。
C 今や我国家は,その歴史的成長のために,国民に如何に行動すべきかを明らかに示して,これに必要な国民の能力と資質の外に,その性格の形成せられることを要請しているのである。・・・(中略)・・・職業内(工場労働)において国家が(個々人に対して)国民的性格を育てあげることが職業の重要任務である。それ故に職業各部門の指導者達(経営者達)は,心理学者であると同時に教育家でなければならない。(桐原葆美『戦時労務管理』1942年,61頁),桐原は労働科学研究所所員。
D 一国の国力は,其の国を構成する民族の強弱によって決定する。強い民族の力,それは其の民族の優秀なる質と強大なる増殖力を以って計られる。・・・(中略)・・・体質と体格とを含めた立派な肉体と,知能と精神とを含めた優れた能力とを,兼ね備へた優秀な民族が,旺盛なる勢ひをもって其の人口を増殖しつつある時,その民族が構成する国の力は,兵力に於いても,生産力に於いても,また,文化の力に於いても,盤石の重きにある。(牧賢一『勤労母性保護』1943年,67~68ページ),牧は大政翼賛会厚生部幹部。
問1 Aの労務(国民)動員計画において,1942年以降,動員数が意識的に少なくされた国民階層(職業)は何か。またその理由について述べなさい。
問2 Bの下線部「国民」とは具体的にどのような人々をさすか。また,それらの国民を急速に動員させることとなった法令(勅令)を1つ挙げなさい。
問3 Cの文章は,アジア太平洋戦争期の日本を,単に戦時体制と呼ぶだけでは不十分なことをものがたっている。ここから読みとれる日本の戦時体制の特質をCの下線部分に留意しつつ述べなさい。
問4 Dの文章は日本の民族について述べたものである。アジア太平洋戦争の性格と内容を,この「日本民族観」と関連させて述べなさい。